大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(う)1863号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人水嶋晃、同吉田健、同藍谷邦雄共同作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官大川敦作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

一控訴趣意第一点(事実誤認の主張)に対する判断

1  本件ストライキに至るまでの経緯についての事実誤認の主張

所論は、要するに、原判決は、「本件に至るまでの労使関係の経緯」(原判決一二丁ないし一七丁)の結論として「会社に団交決裂の責任を一方的に負わせることはできないところである。」と判示したが、これは、本件団交の前後を通じ、会社の労働組合敵視や組合に対する背信行為、組合の柔軟な姿勢等に対する視点を欠落しないしは軽視した結果おかした重要な事実の誤認であり、本件争議に至つたのはあげて会社の責任である旨主張する。

しかし、原判決が理由冒頭の「犯行に至る経緯」及び前示「本件行為に至るまでの労使関係の経緯」において認定しているところは、証拠に即し、被告人らの本件行為の評価にとつて重要な諸点を忠実に摘示しており、ことさらに会社側に有利な点、あるいは組合側(被告人側)に不利な点を強調しているとは認められず、したがつて、原判決に所論指摘のような視点の欠落等があると論難することは適切ではない。そして原判決がその認定にかかる諸事実を総合して「会社に団交決裂の責任を一方的に負わせることはできない」と判示したのは十分是認でき、事実の誤認があるとは認められない。

2  本件行為の目的及び態様等についての事実誤認の主張

所論は、被告人らの本件行為の目的は、会社を前向きに話合いに応ずる姿勢に変えようとしてストライキを行ない、その際会社従業員に対しストライキに協力するよう説得する意図にあつたものであり、会社の製品出荷業務を威力を用いて断固阻止することにあつたのではない、と主張し、特に原判決の①昭和五七年六月一〇日の支部(注、当判決においても原判決の用いた略語をすべて踏襲する。)埼玉ブロック幹事会での決定内容 ②代納依頼に応じないようにとの取引同業者に対する働きかけ ③六月一六日の組合の行動予定 ④本件ストライキの態様及び組合員らの言動に関する各判示部分を批判し、結局、原判決が右①ないし④の諸点を根拠に、被告人らの本件行為の目的は生コンクリートを積載したコンクリートミキサー車の出構を阻止して会社の製品出荷を妨害することにあり、現に当日の被告人らの行為は威力を用いて会社の製品出荷業務を妨害したものにあたる、としたのは事実を誤認したものである、というのである。

以下、右主張に沿つて逐次検討する。

(1)  昭和五七年六月一〇日の支部埼玉ブロック幹事会での決定内容について

所論は、右幹事会においては六月一四日以降の「ストライキによる出荷阻止」を定めたにとどまり、原判決が認定しているような「ピケッティングによる出荷阻止」を決定した事実はないというが、そもそも鈴木コンクリート工業においては従業員二八名(うち運転手一七名)中右の支部埼玉ブロック幹事会の母体である東京地区生コン支部に所属する鈴木分会の構成員は運転手わずか三名にとどまり、これら三名のストライキ、すなわち労務不提供によつては会社側の生コン出荷を阻止することは不可能であり、さらに鈴木分会以外の支部組合員に対しても動員態勢を敷いていたことからすれば、所論のいう一四日以降のストによる出荷阻止が主としてピケッティングによる出荷阻止を意味するものであつたと考えるべきは(それが威力業務妨害罪を構成する態様のものであつたかどうかは別として、)明らかである。このことは鈴木俊男の原審及び当審証言によつても裏づけられているところであつて、原判決が右幹事会において、会社の対応に変化がなければ、同年六月一四日からピケッティングによる出荷阻止を戦術とするストライキを実施することを決定したと認定した点に誤りはない。

(2)  代納依頼に応じないようにとの取引同業者に対する働きかけについて

この点に関する原判決の摘示は、支部埼玉ブロック傘下の組合員らが、昭和五七年六月一四日からのピケッティングによる出荷阻止を戦術とするストライキの実効性を確保するため、会社の取引同業者に対し会社からの代納依頼を拒否するように働きかけたとの事実を指摘するものであるが、このような代納拒否要請が組合による出荷阻止戦術目的の実効性確保のためのものであつたことは証拠上十分窺知できるところであつて、原判決の右認定は正当である。所論は、原判決は右の代納拒否要請を「多数の威力をもつて」会社の業務を妨害することの効果の確保のためのものであつたと認定しているかの如くいうが、原判決は代納拒否要請を本件犯行に至る経緯として組合の出荷阻止戦術目的に関連させつつ記述してはいるものの、その出荷阻止が威力を用いて行なわれるか否かに直接結びつけて記述した趣旨でないことは判文自体に徴して明らかであるから、所論は当を得たものとはいえない。

(3)  六月一六日の行動予定について

所論は原判決が、六月一四日のストライキは午後三時まで行なわれており、本件当日のストライキもこれと同じくらいまで行なうとの認識を被告人らが有していたとの供述があることと、被告人甲が弁当を予約していたことを理由に、本件当日の行動は昼食後まで相当長時間にわたつて会社の製品出荷を阻止する予定のもとになされたものと認められると判示したのは事実に即しないと非難するものであるが、原判決挙示の証拠によれば、本件の二日前の六月一四日に行なわれたストライキにおいては、午前一〇時ころ会社工場前に集合した支部傘下の組合員約三〇名が解散したのは午後三時ごろであつたこと、被告人甲は検察官に対する昭和五七年六月一八日付供述調書において「当日も一四日と同じ午後三時ごろまで出荷阻止行動をするつもりであつた」と述べていること、被告人丙も原審第二〇回公判において「一四日と同じくらいまでやるのかなという認識をもつていた」と述べていること、本件当日被告人甲が支援組合員らの昼食用弁当を注文していること等はいずれも原判決の指摘するとおりと認められ、しかも後述するように一六日の行動は現に出荷阻止に向けられ、当日の午後まで居残つた二〇名近い組合員が岩越の運転する二〇一号車の出構を拒んだ事実に徴しても、組合は長時間にわたる出荷阻止を予定していたとする原判決の前示認定を誤りとすることはできない。

なお、弁護人は、当審最終弁論において、前記六月一四日のストライキの際には、会社従業員らも被告人及び支援組合員らの呼びかけに応じて会社の生コン搬送業務には従事しなかつたし、また組合員らが大友、渡辺の運転する各ミキサー車の出構を実力をもつて阻止した事実もなかつたとの点をあげ、これは被告人らが本件当日においても出荷妨害の目的はなく、もつぱらピケによる説得活動の意図を有していたことのあらわれである旨強調するが、右一四日は支援組合員らが会社工場前に集つたころには会社側が雨のため出荷をすでに中止していたものである以上、大友、渡辺らが自ら出構を断念したことをもつてしては、前示認定を左右する事実とはなし難い。

(4)  本件ストライキの態様及び組合員らの言動について

原判決挙示の証拠によつて認められる本件当日のストライキの態様及び組合員らの言動は、これをやや詳細に摘示すれば次のとおりである。

当日会社側は、被告人らを含む支部の組合員らが出荷妨害の挙に出るものと予想してこれを阻止するため、午前七時三〇分ごろから正門出入口にロープを張り、大友、渡辺の両名で車の出入りをチェックしてロープを上げ下げしていた。被告人らを含む支部の組合員約三〇名は午前一〇時三〇分ごろ会社工場正門の前に到着してロープの外側に一列に並び、一〇時三二分ごろ本田義雄の運転する生コンを積載した一二四号車が正門を出ようとしたのをみて、三列ぐらいの横隊になり、第一列はスクラムを組んで、クラクションを鳴らしながら出構しようとする本田車の進行を阻止した。そこで、会社側の大友、渡辺、鈴木富美子及び「只今から出庫します。妨害はやめて下さい。鈴木コンクリート工業(株)社長鈴木照雄」と書かれたプラカードを持つた鈴木雅章の四名は、本田車の前面で出荷の妨害をしないように呼びかけるとともに、会社社長鈴木照雄もマイクで「ただいまから出庫します。出荷妨害はやめて下さい。」と訴えたが、組合員らは口々に「出られるものなら出てみろ。」「今日は出荷ができると思つているのか。」「天下の三菱が勝てないのにお前らに勝てるはずがない。」などと怒号し進路を開かなかつた。本田は社長の指示に従つていつたん構内に後退し、その後二度にわたつて出構を試みたが、その都度組合員らは前同様の方法により、さらには本田車によりかかるなどしてその出構を阻止した。午前一〇時五四分ごろ志村警察署署員がパトカーのマイクで「このような状態は威力業務妨害になるので責任者は直ちに移動させて下さい。」と三、四度警告を発するとともに路上で「部隊による規制活動が始まる」と書かれたのぼりを掲げて組合員らに注意を促したうえ、部隊が規制活動に入り、最前列でスクラムを組むなどして本田車の出構を阻止していた被告人三名、原審相被告人丁及び戊らを逮捕したところ、蝟集していた組合員の多くは本田車の前面を開けて散つたので、本田車はようやく午前一一時ごろ出構することができ、これに続いてミキサー車は次々と現場に向つた。しかしながら、その後も二〇名近い組合員らはなおも工場正門付近に居残り、午後零時五〇分ごろ岩越の運転する二〇一号車が出構しようとするやこれを阻止し、パトカーが再び姿を見せるに及んで正門付近を離れたので、岩越車は予定より五分ほど遅れて出構するに至つた。

以上認定の事実によれば、被告人らを含む組合員らが午前一〇時三二分ごろから一〇時五七分ごろまでの間にとつた行動は、そのほとんどが会社の製品を出荷しようとする本田車の出構を阻止することに向けられたものであつて、この間に組合員らが「会社は団体交渉に応じろ。」とのシュプレヒコールをあげたり、あるいは本田に対し「同じ労働者じやないか。」などと叫んだりしていた事実が認められるとしても、所論のいうような、会社に話し合いに応ずるよう、また会社業務に協力している従業員にストライキに協力するよう促すこと以上の行動には出なかつたものとは到底いい得るものではないばかりか、戊の、六月一五日に自分の所属する支部滝島宇部生コン分会の田書記長から明日三人で鈴木生コンに車をとめに行くといわれてこれに加わつた旨の原審証言並びに前示認定の事実関係に照らせば、被告人らを含む組合員は、当初から集団の威力を背景に会社の製品出荷にあたるミキサー車の運行を実力をもつて阻止することを企図し、まさしくそのような行動に出て会社製品出荷の業務を妨害したことは明らかである。

(5)  したがつて、原判決が証拠にあらわれた本件前後の事実を総合し、本件行為は「ピケッティングによる出荷阻止」を目的としたものであり、現に当日の行動もこれに沿うものであつたとした認定に事実の誤認はない。

二控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)に対する判断

1  構成要件該当性について

所論は、被告人らを含む組合員らの行為は、出構しようとしたミキサー車の前面に集つてその運転手にストライキに協力するよう説得したにとどまり、外形上も生コンクリートの出荷業務を阻止しようとする行為とはいい得ないから、刑法二三四条に定める構成要件には該当しないというのである。

しかしながら、当日会社工場前に集つた被告人らを含む約三〇名の組合員らは、午前一〇時三二分ごろから一〇時五七分ごろまでの間、本田の運転するミキサー車が出構しようとした際、口々に原判示文言を怒号しつつ、その前面にスクラムを組んで立ち塞がり、さらには右ミキサー車に寄りかかるなどして出構を阻止する行動に出たものであつて、本田があえて出構しようとすれば、前面に立ち塞がつた組合員らを轢過して進む以外に方法がなかつたと認められ、また、右被告人らの行為はたまたま出構しようとしたミキサー車の運転手が鈴木分会の結成準備を会社に通報した本田であつたがために偶発的に発生したというものではなく、既述のとおり、当初からミキサー車の出構阻止を企図しこれを実現しようとした行為であつたといわなければならない。してみれば、被告人らの本件行為は、集団の威力を用いて会社の生コンクリート搬送業務を一時的にせよ不能にしたものというほかなく、刑法二三四条の定める構成要件に該当することは明らかであり、所論は採用できない。

2  違法性阻却事由について

所論は、原判決が違法性阻却事由の判断に必要な「諸般の事情」として取り上げた事実の認定に多くの誤りがあることは控訴趣意第一点で指摘したところであるばかりでなく、「諸般の事情」として当然検討されるべき①団交決裂後の労使の争議回避努力の有無 ②本件事件当日の会社側の組合員らに対する挑発的行動 ③本件行為によつてもたらされた実害の具体的内容 の三点についての検討を除外した結果、原判決は労組法一条二項の解釈を誤り、被告人らの行為につき違法性が阻却されないとの誤つた判断をしたもので、破棄を免れない、ともいう。

ところで、犯罪構成要件を充足するピケッティングについて、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、当該行為の動機、目的、具体的状況、その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容し得るものか否かを判断すべきものと解されるので、以下この観点から右の所論について検討を加えることとする。

(1)  団交決裂後の労使の争議回避努力の有無について

所論は、昭和五七年五月二九日の第六回団交決裂後、組合側は争議突入を回避する努力を継続したのに、会社側はこれに応ぜず、組合に対する対決姿勢をあらわにした事情があるのに、原判決はこれを違法性阻却の判断上考慮に入れていないと主張する。しかし、〈証拠〉を総合して認められる、右団交決裂後における組合猪浦書記長等による会社側への電話等による申入れが争議回避のための紳士的申入れと評価できるものであつたかはかなり疑問があり、会社側が組合に譲歩するような言質を与えなかつたのは対立当事者としては当然であつたとも思料されるので、原判決が右のような経過を違法性阻却の判断上重要視しない趣旨で判決文中に摘示しなかつたのは十分理由のあつたところと考えられる。

(2)  本件当日の会社側の組合員らに対する挑発的行動の有無について

原審記録によれば、当日会社工場内に私服の警察官が立ち入り採証活動に従事していたこと、工場長鈴木富美子が当日の模様を写真におさめていたことが認められるけれども、これは当日、発注先の建築工事現場へ生コンクリートを搬送すべく出荷予定をたてていた会社として、予想される組合側による違法な出荷阻止行動に対処するため、警察に連絡しあるいは自ら証拠を保全する措置をとろうとしたもので、この措置は当時の情勢下にあつては一応無理からぬものであつたと判断される。したがつて、会社側の右措置及び会社の連絡に照応した警察活動をもつて違法な挑発行為に出たものであるとすることはできない。また社長鈴木照雄がマイクで本田車に対し後退、前進を指示したのは、組合員らが本田車の出構を阻止したがためであつて、これが被告人らを逮捕するきつかけを作ることを企図して作為的になされたものとみることもできない。

(3)  本件行為によつてもたらされた実害の具体的内容について

一般にピケッティングにおいては、当該行為によつてもたらされる実質的被害の程度のいかんもまた違法性阻却事由を判断するにあたつての「諸般の事情」の一要素を構成することは所論指摘のとおりであり、他方、本件において会社のミキサー車の出構が二五分の遅延にとどまつた結果、さしたる実害をみるに至らなかつたこともまた事実である。しかしながら、この点については、当該ピケッティングにより現実に発生した結果だけではなく、そこに包蔵されている危険性の度合いに対しても着目を要するものである。すなわち、当該行為が何らかの理由からいわば他律的に窮極にまで至らなかつたときなどは特にそうである。そこで、本件において会社業務への影響を検討する場合には、会社ミキサー車の出構が二五分の遅延にとどまつたとの現象面だけではなく、もし警察官の介入がなかつたとすれば、被告人らによる出荷阻止行動は当日午後にまで及ぶものであつたこと、そしてその阻止行動は、背景として支部埼玉ブロック傘下の組合員らによる会社同業者らに対する代納拒否工作があつて、会社が代納先を見出すことはまつたく不可能な状況のもとで行なわれたものであつたこと、したがつて、被告人らによるこの出荷阻止行動が本田車の出構阻止の始まつた午前一〇時二七分ごろから午後まで続けられた場合には、この間当日予定されている出荷先の建設工事現場への生コンの搬送がとだえることは明らかであつたこと、そうすれば原判決が正当に判示するような生コン出荷業務の特性からしても、建設工事現場における作業計画への影響、打ち継ぎ面の発生等の実害が生じ、その結果会社の信用失墜につながることは必至であつたとみられること等の危険性をも十分考慮すべきものといわなければならない。この意味で、原判決が、本件行為の態様は、結局、会社の業務に多大の影響を与える性質のものであつたとした判断は結論的に十分是認し得るところである。

以上のとおり弁護人の指摘する諸点についての見解には左袒することができないが、なお、さらに進んで被告人らの行為につき可罰性を有しないとする余地があるか否かについて総合的に検討すると、本件における被告人らの行為は会社従業員のうち鈴木分会に属する三浦菊雄、岩下利久及び被告人甲が自らの待遇改善を求めて同盟罷業を行ない、これを支援する支部組合員らとともにこれを実効あらしめるための補助的手段としてのピケットを張つた際にとられた行動であること、会社は被告人甲らによる鈴木分会結成の動きを察知するや、これを封じようと画策したうえ、企業内組合の結成に力を貸すなどの不当な行為に出たこと、本件当日のピケッティングに加わつた人数は比較的少数で、しかもこれまで労働争議に附随して発生した威力業務妨害罪事件に屡々みられるような直接的暴行はなかつたこと、被告人らの妨害によつてもたらされた現実的被害としては幸いとりたててあげるべきものがなかつたに帰することなどは被告人側に有利に働らく事情として最大限に考慮されるべきものであることは否めない。しかしながら、そもそも同盟罷業は自らの労務不提供が正当な行為とされるというにほかならないものであるから、これを実効あらしめるための補助的手段としてのピケッティングにおいても、自らの統制を及ぼすことのできない非組合員に対しては、せいぜい罷業への参加あるいは協力ないし同情を求めるための説得を基調とする必要な行為以外には本来許されない性質のものと考えるべきものである。然るに、被告人らを含む支部傘下の組合員らが、前示の如く、当初から会社の生コンクリート搬送業務を阻止しようとして、衆をたのみ、スクラムを組んだうえ怒号するなどして本田車の出構を阻止した行為(なお、これに続いて生コンクリート搬送現場へ向かおうとして待機していた会社従業員の運転するミキサー車の出構をも不能ならしめている。)は、労働組合の力を過信したきらいがあり、上述の支部傘下組合員以外の非組合員に対して許される働きかけの範囲をかなりの程度逸脱した行為というほかなく、しかも警察の介入がなかつたとすれば当日の午後にまで右の阻止行動が続けられ、その際には相当甚大な被害が発生したと認定するに十分であることからすれば、前示の被告人らに有利に働らく事情を考慮にいれても、被告人らの行為を適法化するまでには至らないといわざるを得ない。

してみると、刑法二三四条の威力業務妨害罪の構成要件を充足する被告人らの本件行為は、法秩序全体の見地からこれをみるとき、すでに認定した当該行為の目的、態様、具体的状況、その他諸般の事情に照らしても、容認されるべきピケッティングの合理的範囲内にとどまつたものと評価することはできないから違法性が阻却されないとした原判決の判断は正当であつて、論旨は理由がない。

三控訴趣意第三点(訴訟手続の法令違反の主張)について

所論は、本件は被告人らの正当な労働組合活動を弾圧しようとの意図のもとになんらの犯罪をも構成しない被告人らの行為をとりあげて起訴したことが明らかであるから公訴権の濫用であり、しかも被告人らに対する取調手続自体にも種々の違法があるので公訴提起自体無効であるにもかかわらず、原判決が弁護人の公訴棄却の主張を排斥して被告人らを有罪としたのは訴訟手続の法令違反にあたり破棄を免れない旨、原審における主張を繰り返すものである。

しかしながら、被告人らの本件行為が刑法二三四条の構成要件に該当しかつ可罰性にも欠けるところがないことはすでに詳述したとおりであつて、本件において警察が当初からもつぱら刑事弾圧を企図して労働組合の正当な活動に介入したとみるべき資料はない。また、捜査過程に何らかの違法がある場合であつても、その違法が当然には公訴の提起それ自体の効力を失わせるものではなく、所論の指摘するような捜査の違法はその存否を問うまでもなく本件公訴提起の効力に影響を与えるものでないことは原判決の説くとおりである。

結局、本件起訴は公訴権の濫用にあたらず、その他公訴の提起自体を無効ならしめるような事由は全く存しないから、原判決に訴訟手続の法令違反があるとする所論は採用するに由はない。

四結論 以上のとおり、論旨はすべて理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用は同法一八一条一項本文、一八二条を適用して被告人らの連帯負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩原太郎 裁判官高木典雄 裁判官小林 充)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例